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音楽好きの読書と買い物メモ

Home Before Daylight : My Life on the Road with the Grateful Dead

Home Before Daylight : My Life on the Road with the Grateful Dead

Author: Steve Parish, Joe Layden

グレイトフル・デッドのロードクルーの一人で、長年ジェリー・ガルシアの楽器を担当していた著者の回想記。

なんといえば良いのか?著者の思い出した順にまさに回想記としか呼びようの無い世界が語られていく。書籍としては、それぞれのお話は年代順に並べられているのだが、デッド史とはあまり関係の無いレベルで、親しかった友人の死や、クスリにまつわる体験、ヨーロッパツアー中の売春宿での大暴れなどの思い出話が次々と繰り出されてくる。

「ヘルズ・エンジェルだった友人の死」→「その友人の勧めだったバイクへの興味」→「紹介された伝説のバイカーにバイクを作ってもらうことになる」→「バイカーとその愛犬のハードコアな隠遁生活」...。ある章の話はこんな感じで進んでいくが、この手法どこかで読んだことがあるとずっと思っていたら、そうだ思い出した。向田邦子のエッセイと同じだ。まるで連想ゲームのように、ひとつの言葉がキーワードとなって別の言葉が呼び出され、エッセイの最後にはまるで違う話のようになっていく(でも向田邦子の凄いところは、読み終わってから振り返るとひとつのテーマがきちんと語られているところだ)。

ティーヴ・パリッシュの場合は、前後の脈略が無く、単に思い出したままにいろんな話が語られているだけのような気もしないではないが(笑)、でもこうした回想録は貴重だ。なまじっか史実に基づいて有名な事件の裏話をしたり(それはそれで楽しいけれど)、デッドの音楽を自分の言葉で語ろうとしたりされるよりは読んでいて楽しい。それに著者の人徳だろうか、何よりもこの本は肩がこらない。
読んでいて「アハハ面白いなあ。あれ?でもこの章はグレイトフル・デッドと全然関係ない話じゃないか」ということも多々あるけれど、なんとなくそれが許せてしまう。

献辞の中で、もうこの世にいない2人の子供と奥さんの名前が書かれていて、読み進んでいくと、彼女たちが亡くなった経緯が本書の中に詳しく書かれています。その時のバンドのメンバーたちの心優しい対応、そして、その時期ジャンキーと化していたジェリーの精一杯の姿には、複雑な悲しさがこみ上げてきます。また、夜通し働き続け、移動中のトラックで九死に一生を得た著者をホテルの部屋で出迎えたフィル(・レッシュ)の思いやりに溢れた言葉と態度には、思わずホロリとしてしまいます。
バンドとそのスタッフという上下関係ではなく、ファミリーの中にバンドとスタッフが同じ高さでいるということを実感させられる一冊です。