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Queenをキチンと聴きたい人のためのアルバム解説<その3>

Sheer Heart Attack


アルバムの聴きどころ


クイーンというバンドのフォーマットが形になったのはこのアルバムから、と考えるとその後のアルバムを整理する際にやりやすいでしょう。もちろん代名詞としての名曲"Killer Queen"が収録されているという点も大きいですが、初期のアルバム2作での数々の試行錯誤の結果、このアルバムに行き着いたという点を見逃すべきではないと思います。


ついでに


熱心なファンでも意外に忘れがちなことは、ブライアンがこのアルバム制作前のアメリカツアー中に(モット・ザ・フープルの前座での参加)肝炎に、そして帰国後のアルバム制作中に十二指腸潰瘍に相次いで罹り、闘病生活をしていたため、アルバム内でのブライアンの作業量がかなり少ないということですね。
そう書くと意外に思う人は多いかもしれません。確かにこのアルバムでのブライアンの作品は"Brigton Rock"、"Now, I'm here"、"Dear Friends"、"She Makes Me"の4曲、共作品の"Stone Cold Crazy"を入れると5曲です。ただアルバムB面収録の"Dear Friends"の簡素なアレンジや、前作のIIでのフレディ作品への貢献度などと比較すると、やはり作業量は半減していると考えたほうが良いでしょう。


Sheer Heart Attack


1. "Brighton Rock"


聴くほどに不思議なブライアンの曲。ライブ・アルバム"Live Killers"のロングバージョンを聴いてからは、あれが本来は目指した形だったのかな?と思わないでもないけれど、それにしてもアルバムの冒頭に5分超の、しかも曲の大半が中盤で延々と続くギターソロとなると、この曲をアルバムの冒頭にするというのは、ずいぶんと思い切ったことをしたなあと、聴くたびに思います。
曲自体も歌の部分はギターリフのようなAメロの繰り返しと、ほんの少しの展開部&尻切れトンボのサビ(サビだよね?01:21~01:35)と、実験作のような摩訶不思議な曲だなと、思わずにはいられません。曲に関する解説や、制作当時の話がこの時期は特に少ないので、何故この曲がこの場所に収まったのか?、いまだに謎ですが、まあプログレムードから脱しきっていない時期の遺産のようなものと、個人的には考えています。


2. "Killer Queen"


Queenの代名詞的な名曲。フレディ節全開のこの曲で、この時期までかなり否定的な評価を下されていた批評家筋からも一定の評価が貰えるキッカケとなった永遠の名曲。「聴けば分かる」という表現はズルいけど、本当にクイーンというバンドの魅力を1曲で凝縮している名曲です。


3. "Tenement Funster"


前作までの2枚のアルバムでは、ややオマケ的な扱いだったロジャー作品ですが、ここに来てグッと存在感を増してきます。何よりアルバムA面のかなり良い位置に曲が置かれている点からも、バンド内での手応えのようなものを感じさせられますね。ロジャー作品の聞き所としてはギターフレーズでのブライアンの貢献度、コーラスアレンジでの(おそらくは)フレディの貢献度を確認しながら聴くことで新しい発見があると思います。次作の"I'm in Love with my Car"へと続くロジャー節全開の隠れた名曲。


4. "Flick of the Wrist"


前曲のアウトロのピアノからメドレーで繋がるドラマチックなフレディ作品。この辺り、前作のアルバムIIの香りもプンプンしますがかなりの成長が確認出来ます。
サビでの畳み掛けるような分厚いコーラスとの掛け合い。ため息のように色気たっぷりのフレーズで1番を締めくくると、2番ではコーラス部隊がメインとなってAメロを歌う(ちなみに3番ではフレディ+コーラスでの混声によるAメロ)、聴けば聴くほどに練られたアレンジと単純に見えて実は複雑な構成の曲に深く感心するばかり。
意外に見落としがちですが、"Killer Queen"との両A面扱いでシングルカットされている点からも、フレディの自信作だったことが分かります。


5. "Lily of the Valley"


聴き手を高みに連れ出した後、その高揚感を一時的に静めるような穏やかなバラード曲。前作では"Nevermore"がその役割を果たしていたけれど、今作では更にグレードを上げたこの名曲がここに登場です。それにしても美しい。美しすぎる。前曲の疾走感からバトンを渡されたように、ギターの(まるで車のエンジンを一旦落とすような)不思議なフレーズで始まるこの曲。Aメロに対峙するようにどこまでも高みへと駆け上がる展開部の美しさ。ここぞとばかりに爆発的に被せられるコーラスワーク。フレディの稀有なる才能をまざまざと見せつけられる名曲。


6. "Now I'm Here"


資料によれば、入退院を繰り返していたブライアンにより、アルバムの締め切り間近に仕上げられた作品ということで、改めて聴きこんでみると意外と音が薄いことに気付かされます。またアウトロも何となくやっつけ仕事のような曖昧なアレンジに聴こえるのもそのせいかもしれません。
イントロ後のキメ(1:00辺り)で、ロジャーのドラムだけがブレイク混じりの「ダッタッ」というのに入りきれずに、完全に手が止まっているのが確認出来ますが(各種ライブテイクではきちんと「ダッタッ」と決めているので、スタジオ盤でのここはドラムのミスと考えたほうが自然ですね)、この辺りも時間の制約で録り直しをせずにそのまま行ってしまったのかなと深読みしたくなる作品ですね。LP時代はここでA面が終了です。
そういえばこの曲の日本語タイトルは「誘惑のロックンロール」でしたね。誰が考えたんだろう?


1. "In the Lap of the Gods"


始まった瞬間に、何がどうなっているんだ?と聴き手を大混乱にさせるほどの分厚いコーラスで始まるフレディ作品。"Flick of the Wrist"、"Lily of the Valley"にも言えるけれど、このアルバムのフレディ作品での分厚く入り組んだコーラスワークは、やはり闘病中だったブライアンの不在を埋めるための工夫と考えるべきなのでしょう。前作のセカンドアルバムでは、コーラスとギターが互いに隙間を埋めるような作品作り(アレンジ)でしたが、このアルバムではコーラスの比重がかなり高いことを意識して聴くと、各所で新しい発見があります。


2. "Stone Cold Crazy"


ブライアンのギターが冴え渡り、重いリフが高速で駆け抜けていくカッコ良すぎるロックチューン。やはりこれもブライアンの闘病の影響だろうか、ギターが様々なリフを聴かせてくれるこの曲では、珍しくもコーラスがほとんど入っていません。そしてギターもいわゆるオーケストラ風の重ねがありません。
速いテンポのシンプルな(一概にシンプルとも言えないけれど、他の曲に比べると意外にシンプルな構成の)曲なので、コーラスが入ってないのかな?と思わないでもないですが、ここはやはり制作時間の少なさや、ブライアンの不在により作品の仕上げに綿密な打ち合わせが出来なかったとみるべきかもしれません。ただ、だからといって、この曲の完成度が低いわけではありません。中間部でドラムのリムワークとフレディのボーカルだけになるところから、主旋律に戻ってくる辺りは何度聴いてもゾクゾクします。もともとはクイーン以前にフレディが在籍していたバンドで演奏していた持ち歌を、少しずつメロディを変え、歌詞を変えているうちに最終形のこの形になったそうです。そのため、誰がどこを作ったかも不明なので、楽曲のクレジットはクイーン名義となっています。
後にヘヴィメタルバンドのメタリカがこの曲を、ほぼ原曲通りにカバー演奏しているのを聴いて、「そうか、こんなにヘヴィな曲だったのか」と改めて、クイーンというバンドの懐の広さを実感しました。


3. "Dear Friends"


ピアノと最小限のコーラスだけからなるブライアン作品。小品といえばそれまでだし、締め切りに追われて無理やりひねり出した(あるいは過去に作った断片を広げた)作品だろうと、意地悪に考えると実際にそうなのかもしれないけれど、でもこの作品が収められたことで、ファースト、セカンドに垣間見れたプログレ趣味から、身体半分くらいは脱却できたという見方も、出来るのではないかなと思います。
こういう例えをすると、強引と思われるかもしれないけれど、サードアルバムというものは(一部のミュージシャンにとっては)、こういった「デビュー当時に当て込んでいた方向性からの大幅な軌道修正時期」ではないかと思っています。あのプリンスですら、サード・アルバム「ダーティマインド」では、過去の過剰なアレンジから脱却して、ほぼデモバージョンに近い音でアルバムをリリースしていますよね?(と言われても誰も知らないか)。"Killer Queen"という華美の限りを尽くした作品と同じアルバムにこういった作品を収録しようという決断が、この時期のクイーンの自信であり、自分たちの進むべき方向性が見えてきた証拠ではないかなと思っています。


4. "Misfire"


ジョン・ディーコンの初作品。まあこんなもんかなという小品ですが、この人が次作で名曲"You're my Best Friend"を仕上げてくるのが何とも不思議で、そのギャップにはいつも驚かされる。ところでこの曲、ヘッドフォンで聴くといつも不思議なミキシングだなと思ってしまう。メインボーカルが左寄りに聞こえ、伴奏のギターが右寄りにかなり大きめにミキシングされている。なんでまたこういう偏ったことをしたのかな?
曲中のギター演奏はソロ部分も含めて、全てジョン・ディーコンの演奏という情報もありますが(確かにソロ部分のタッチやメロディラインはブライアンの演奏ではないでしょう)、開始後すぐに演奏されるちょっと木管楽器風のメロディもジョンなのかな?この音色の部分だけはブライアンのように思えるんだけれど?でもブライアンにしては同じフレーズを最初から最後まで繰り返し過ぎですね。


5. "Bring Back That Leroy Brown"


一聴して思うのは、チャンネル数が本当に少なかったんだなということ。1番で伴奏に終止していた左チャンネルのウクレレが、2番以降では代わりに入ってきたコーラスに追い出されるように、途端に聞き取りにくくなります。プロデューサーのロイ・トーマス・ベーカーの苦労の後が垣間見れますね(それにしても、もうちょっと自然なミキシングには出来なかったのかな?前曲の"Misfire"とこの曲は特に)。
まあそうは言っても本当に楽しい曲。ギターソロもまるでクラリネットのソロのようだし、ブレイクでのウクレレ演奏も、そしてジョンのウッドベースのフレーズも見事。多芸に溢れたメンバーの演奏が光る一曲です。そしてこのフレディ作品の発展形が次のアルバム収録の"Good Company"(でもブライアン作品)というのも面白い。


6. "She Makes Me (Stormtrooper in Stilettos)"


深いエコーの奥でミドルテンポのアコースティックギターとドラムに合わせ、物憂げなブライアンのボーカルが響くという異色のブライアン作品。中間部にチラリと出てくるエレクトリックギターもSE的な使い方で、劇的な展開も壮大なアレンジやソロも無く、聴くたびに不思議な曲だなと思います。てっきり締め切り間近のタイミングで滑り込みで作り出した作品かと思っていたら、どうやらレコーディングのかなり初期に録音された作品で、決してやっつけ仕事では無いということが分かってから聞き直すと、さらに不思議度が増します。
ただじっくり聴くと(天才ボーカリストのフレディの影に隠れてしまい、あまり評価されることは無いですが)、ブライアンの歌の上手さに気付かされます。憂いを含んだ、それでいて伸びやかなブライアンの独特な声と、嵐の前のような迫り来る緊張感を孕んだ作風は、後の"All Dead All Dead"、"Sail Away Sweet Sister"へと繋がっていきます。


7. "In the Lap of the Gods... Revisited"


フレディ節全開の名曲。最後の大合唱が印象的ですが、改めて聞き直してみると意外にも主旋律はフレディの歌唱だけでコーラスはほとんど無し。2番の(you can do it You can go and) の掛け合い部のみコーラスが入ってますが、これさえも主旋律をカバーするものでは無く、あくまで掛け合い部なので、主旋律はフレディが1人だけで歌うことにこだわり抜いであろう自信作。
ところで、フレディ・マーキュリーの歌の上手さを言葉で表現することは難しくて、昔の音楽雑誌では「七色の声」と評されていますが、フレディが声のトーンを使い分けることに秀でているとはあまり思えないですね。それよりも彼は言葉をメロディに即興で乗せることが天才的に上手かった人だなと思います。
歌い始めのAメロから優しげな地声と裏声を滑らかに使い分け、その境界をユルユルと行ったり来たりしながら、サビ前の「It's in the lap of the Gods」のlapで太い地声がグワっと出てくる所がこの曲で最もゾクっとする瞬間。
(余談ですが、映像化された86年のウェンブリー公演で久しぶりに演奏されたこの曲を、もはや(良くも悪くも)声質が変わってしまったフレディは「It's so funny」辺りの早い段階で太い地声で歌っちゃって、「違う、フレディ、そこじゃない、早い早い」と思った人も多かったのではないでしょうか?)

この曲、本当に名曲なんだけれど惜しい点がいくつかあります。1つ目はやはり、大合唱部のメロディの最後の音が高すぎて、観客が一斉に裏声になっちゃう点(お~お~らら~ら、お~お~らっら~、お~お~フゥ~↑)。これだと、こぶしを一番振り上げたい所で力が一瞬抜けちゃうんですよね。フレディは行けると思ったのでしょうが、ちょっと大合唱するには微妙なメロディだったと思います。もう一つ、決定的に残念な点はこの曲の終わり方です。何ですか?あの雷ドカ~ンと落としてオシマイにしようとする終わり方は?。
クイーンのスタジオテイクには、緻密なコーラスやらアレンジやらをやり過ぎて、所々でちゃぶ台をひっくり返すような展開がありますが、この終わり方だけはいただけません。フェイド・アウトで終わらせるべきですよね、この曲は。


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Queen - Stone Cold Crazy (Live at the Rainbow ...
「超」カッコイイ。YouTubeにはメタリカのカバーバージョンも、2015年のAdam Lambertとのリオでのライブバージョンもあるけれど(僕はフレディ亡き後のボーカリストの中では、Adam Lambertを高く評価しています。彼の突き抜けるようなボーカルなら、フレディも彼の代役を笑って許してくれるんじゃないかな)、やはり本家本元が一番カッコイイ。そしてオリジナルが一番カッコイイと思えるのは、やはりスゴイことだなと思います。



Queen- Bring Back That Leroy Brown
歌無しのショートバージョン。これで聴くとフレディのピアノの上手さも際立ってますね。77年のアールズ・コートでのライブ映像より。


Queenをキチンと聴きたい人のためのアルバム解説<その4> - NAVER まとめ


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